今は亡きギター界の革新者であった、ジミ・ヘンドリックス(ジミヘン)とメジャーデビューしてからのキャリアが40年以上たった今も現役であるカルロス・サンタナ。
2人とも世界的に多くのミュージシャンから慕われ、敬愛されていますが、過去に1度だけレコーディングでセッションをしたことがあり、その時の出会いの様子をギターマガジンのインタビューでサンタナが語ってくれています。
ヒッピー文化の流行や薬物問題の規制も今と比べるとかなり緩い時代だったので、なかなかカオス的な内容ですがおもしろいです。
(以下:記事を一部引用)
インタビュアー:あなたはジミ・ヘンドリックスの大ファンで、幸運なことに彼の曲「鏡の部屋」のレコーディング・セッションに参加したということですが、その時の話を聞かせて下さい。
サンタナ:僕らが5番街にあるニューヨークのホテルに到着した時、デヴォンという名前の女性が僕のことを待っていたんだ。
”何してるの?”と彼女が聞くので、”着いたばかりだから、これからシャワーを浴びるつもりだ”と答えたよ。
”ねえ、私と一緒に来ない?”と言うので、”どこへ?”と尋ねたんだ。
”スタジオに行きましょうよ、ジミがレコーディングしているの”と彼女が言った。
確かレコード・プラントかヒット・ファクトリーじゃなかったかな。
そこで僕はデヴォンにこう言ったんだ、”もし彼がレコーディングしてるんだったら、たぶん誰にもいてほしくないんじゃないかな”ってね。
すると”そんなことないわ、そんな頭の固いこと言わないで。ジミがレコーディングする時、それはパーティーみたいなものなのよ”と言うので、僕も”じゃあ”と返事したよ。
そして、彼女と一緒にタクシーに乗り、6番街を走っていた時、ジミが別のタクシーに乗っているのが見えて、その車は猛スピードで走っていった。
彼はブロンドの女性と一緒だったよ。
彼が先にスタジオに到着して、それから僕らも着いたんだ。
すると彼が僕らの車のほうにやって来てタクシーのドアを開けてくれたんだよ。
僕はもう、”うわぁ神様! ジミ・ヘンドリックスが僕の乗ったタクシーのドアを開けてくれちゃった!”みたいに驚いたね。
最初に彼が言った言葉は、”サンタナ、だよね?”だった。
”そうだよ”と答えたら、彼はこう言ったんだ。
”俺は君の音の選択が好きなんだ”ってね。
僕は、”えっ、ありがとう”みたいになっちゃって。
それからスタジオの中に入って、彼らは「鏡の部屋」の別テイクをいくつかオーバーダブする準備をしていたよ。
スタジオに入る途中、ギターとマーシャル・アンプの隣にいろんなモノがビュッフェ式に並んでいた。
ハシン、コカインやマリファナなどすべて取りそろえてあって、彼はひと通りキメていたので、”うゎ! 僕があれの中の何か1つでもちょっとやろうものなら昏睡状態になっちまうよ! え? 彼はこのままプレイするつもりなのかい?”って。
僕は”うわー”ってなっていた。
あれは全く知らない次元の世界だったね。
もしああいうのを少しでもやったとしたら、僕はギターのチューニングさえもできなくなると思う。
インタビュアー:彼は順調にテイクを重ねていきましたか?
サンタナ:そうだね、最初の8小節は良い感じだったけど、スライド・ギターをプレイしていた時に…(サンタナが「鏡の部屋」を歌い始める)何度も意識が飛ぶんだよ。
プレイしては意識を失うみたいになっていて、もはや彼は曲を演奏しているような状況じゃなかった。
”ああっ! なんてこった”と僕も思ったね。
そこで確か、エディ・クレイマー(エンジニア)だったと思うけど、彼がボディーガードかローディーの人に向かって”彼のところへ行ってギターとアンプから離すんだ! もう気を失っている!”と言っていた。
彼らがジミのところへ行きドアを開けた時、それはまさに映画「エクソシスト」だったよ。
ジミをギターとアンプから離し、体がこちらを向いた時、彼の目はさくらんぼのように赤くなっていた。
そのうえ、口から泡も吹いていたよ。
まるで何かの発作を起こした人を見ているようだった。
僕は固まってしまったね。
”うわわわわわ”みたいにさ。
そして自分の部屋に戻ってから、いわゆる超ヤバイ経験をしてしまったなぁと感じ、”あれはいったい何だったんだ?”って思ったよ。
そこで僕は学んだんだ。
”度を超さないように自制力を持つ必要があるんだ”と。
突き抜けたあっちの世界に行くために薬はやりたくない。
あっちの域に到達するための別のやり方があるはずだ。そして…見つけたよ。
ソニー・シャーロック、ラリー・ヤング、トニー・ウィリアムスやジョン・マクラフリンのおかげで、僕は道を発見した。
薬で意識を飛ばさなくてたっていい、別の方法があるんだ。
僕はよくこの話をするんだよ。
”自制力は大切だよ。自分を抑えないといけないんだ”って若い人に知ってもらいたいからね。
節度を守ることは本当に必要不可欠なんだ。
それなくしては、自分自身を傷つけてしまったり、自分の創造力や活動をも短絡的にしてしまう。
だから僕は、ジミとスライ・ストーンからは多くを学んだよ。本当にね。
ハイになりたくても、まず何より自制に従わないといけない。
僕は自分のことをジェシー・オーエンスやカール・ルイスのように見ているんだ。
これはマラソンで、これはレース。
僕はそれに参加し、打ち勝ち、しかも自分の能力は無傷でいたい。
もし僕にほんのちょっとでも知能なるものが備わっているのなら、必要な時にそいつを使いたい。
支離滅裂になってプレイできなくなってしまうようにはなりたくないし、僕はそんな人間ではないんだ。
インタビュアー:つまりお話しの教訓は、”ビュッフェには近づくな”と。
サンタナ:(大爆笑) そうさ、そういうこと。
ビュッフェはスルーして真っ直ぐアンプのほうに行くんだ。
すごい話です。
早熟の天才として言われ、27歳という若さで亡くなったジミヘンですが、正確な死因は未だ不明ですが、一番高い可能性としては、ドラッグの過剰摂取によるものでしたからね。
ジミヘンに自制する力があれば防げたことですからね。
そして、予想するに多分この辺りからサンタナが、精神世界や宗教に人生(心)の拠り所として重きを置くようになっていったんでしょうね。